エッセイ
2016-01-27(第3291話)チョット中休み エッセイvol.125 社交ダンスが上手くなる教室・展望(5)~息を引き取る前に会いたい人〜
夜11時過ぎ、ミキヒコ運転でまた病院へ戻った。
ヒロコからは、
「お父さん、小康状態。
このまま、病室に泊まる」
とメールが届いていた。
「ヒロコを少しでも、休ませたい」
そう思った。
静かな病室。
ポコポコポコ・・酸素ボンベと、
父の放つ周期的な呼吸の音が、際立っている。
父は、ずいぶん、変わっていた。
生きている人の気はなく、
着実に“準備”している様子だ。
くっきりと浮き出た鎖骨。
息をするたびに、首筋が脈動している。
「昼、観たときと、そんなに、違う?」
と、ヒロコ。
「ずーっと、観てたから、
変化がようわからんわ(よくわからない)」
ヒロコは続ける。
「血圧、安定してるらしい。
ひょっとしたら、まだ、保つ、かも」
次の一息は、あるのだろうか?
といった危うい状態なのだが、見ようによっては、
まだまだ、大丈夫という風にも感じる。
ワタシは、パソコンを取り出し、仕事を開始した。
意外に、集中できる。
肩がこるため、腕ブーラン、10動・・
それを見ていたヒロコも、
軽いエクササイズを見よう見まねでやっている。
時折、姉妹でとりとめのない会話。
「お姉ちゃん、SMAP解散、やて」
「へぇ〜。
でも、まぁ、一人ひとり、
それぞれ、力あるもんな」
「お姉ちゃん、
お父さん、着る服ある?」」
「え?
白装束ちゃうの?」
「その前に、一旦、服、着るやん。
おばあちゃんの時、
綺麗な着物、着せたよ」
「エェッ?
そんなん、知らん。
どーしよ」
ヒロコは、椅子でコクッとしては、
サッと起きて、父を確認、
を繰り返していたが、
そのうち、本気でコクリ、コクリ・・
ワタシが貸した、ダウンジャケットを着て、
フードまでかぶっている。
まんま、夜が明け、朝になった。
父は、ずーっと、変わらず、
安定した状態が続いていた。
「おかしいなぁ。
今晩中・・・と思って、泊まったのに」
ヒロコは、疲れた顔だ。
「落ち着いている間に、
(実家を)片付けてくるわ」
父の遺体を実家に安置し、
仏壇のある奥の間で、
枕経(まくらきょう)をあげてもらう、
その支度だ。
看護師さんに頼んで、
ワタシもヒロコと一緒に病室を出た。
昼からのレッスンに向かうためだ。
「お父さん、体力、あるんやなぁ。
でも、もう一晩、続いたら、私の方がもてへんわ」
力なく、ヒロコが笑う。
「何かあったら、連絡するわ」
その何かとは、当然、
「父が息を引きとった」
の、はずだった・・・
夕方近くになっても、連絡はなかった。
ワタシは、個人レッスンを控え、
仮眠をとることにした。
眠りに入る前、ふと思った。
父がなかなか息を引き取らないのは、何故だろう?
誰か、会いたい人がいるのだろうか?
あ、いた。
お母さん・・・
そうかぁ。
腑に落ちた。
溶けるように眠入った・・・
と、携帯が鳴っている。
ヒロコだ。
てっきり、父のこと、と思ったのだが、
それは驚きの内容だった。
ヒロコは、キンキン叫んでいた。
「次な、お母さん、やねん」
とっさに、意味がわからなかった。
「お母さんが、入院して来てん」
え?
飛び起きた。
様子は?
「それが、お父さんと、一緒。
肺炎。
同じくらい、悪い。
長くないって」
エエッ!?!?
お気に入りに追加