エッセイ

2016-01-26
(第3290話)チョット中休み エッセイvol.125 社交ダンスが上手くなる教室・展望(4)~父に最後のありがとう〜 

プライベートの、
しかも、きつい話が続いておりますが、
「社交ダンスが上手くなる教室・展望」
に繋がっていきますので、
よろしくお願いします。

前回の続き。

ヒデくんが、病室にやってきた。

間に合った・・・
ワタシは、父の肩をたたきながら、声を上げた。

「お父さん、ホラ!
ヒデくん、来たよ。
久しぶりやろう!?
会いたかったやろう!?」

と、不思議な現象が起こった。
父の瞼(まぶた)が、カッと開いたのだ。
そして、一生懸命、目を見開き、

「ヒデくん、
よーく、来てくれたなぁ。
元気にしてたか?」

もちろん、声は出ないのだが、
そう言っていることがわかるほど、
顔じゅうに、生気が広がったのだ。
しかも、鼻に皺をよせて、
笑っているではないか。

ヒデくんという息子ができたことを、
殊の外、喜んだ父。
ワタシ以上に会いたかった?
その時のことを、ヒデくんはこう言う。
「お父さんに喜んでもらえて、嬉しかった。
でも、なんか、信じられない感じ。
それに・・・
病室に緊迫感がなく、
すごく普通で、穏やかだったのを覚えている」

ワタシは、父の耳元で、
自分たちの仕事の報告をした。
「お父さん、手伝ってね、応援、してね」
しっかりと、届いている感じ。

しばらくすると、
父は、また、静かな世界に戻っていった。
繰り返される呼吸活動、のみ。

お母さんは、知ってるのか?
気になった。

「言うても、よう、分からんやろ
(よく、わからないだろう)」
と、ヒロコ。

「でも、いつかは、言わなあかんし、なぁ。
知ったら、ショック、やろうなぁ」

「今でも、しょっちゅう、
こうやって(腕時計を見る仕草)時計見ながら
『お父さんの、ご飯、作る時間や』
って、言うてるらしいわ。
お母さん、お父さんの面倒見ることが、
生きがいやったから」

時間が経過。
父は小康状態のまんまだ。

ヒロコは言った。
「今夜が、山場です、
って(お医者さんが)言うてた」

ヒロコのダンナと息子が、
もうすぐ到着するという。
ワタシとヒデくんは、
“仕事”に戻らなければいけない時間になった。
父とは、これで、
最後になるかもしれないとは、わかっていた。
それでも、
「時間が来たら、一旦はスタジオに戻る」
と、最初から決めていた。

ワタシは、ベッドに近寄り、
「お父さん、また、夜、来る、ね」

反応があった。

頰に手を当てた。
「お父さん、本当に、ありがとう、ね。
ありがとう、ね」

急に辛さがこみあげてきた。
ワッと、泣いてしまった。
見ると、父も顔をしかめて泣いているではないか!?
これが永遠の別れと悟っているかのようだった。
苦しくなった。
でも、明るく、言った。

「お父さん、行ってくるね。
頑張ってね」

ドアまで行ったが、また、戻った。
そっと、右手に触れた。
意識のある父と触れ合った、最後の瞬間だった。

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2016-01-26 | Posted in エッセイNo Comments » 
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