エッセイ
2016-01-25(第3289話)チョット中休み エッセイvol.125 社交ダンスが上手くなる教室・展望(3)~父・危篤〜
前回の続き。
事態が動いたのは、去年の暮れのこと、だった。
久しぶりに、ヒロコから連絡があったのだ。
父が肺炎で入院したらしい。
だが、症状はいたって軽く、
「病院に入ってくれたおかげで、
正月“岡山”に行けるから、かえってありがたいわ」
夫の里帰りもままならない状態が、
続いていたようだ。
ワタシは、本当に久々に、父と母のことを考えた。
来年、春よりの
「ジュンコ先生の教室」バージョン・アップが始まると、
さらに、父と母のことが遠くなるように思った。
「お母さんも、施設で元気にしている。
ジュンコは、仕事、頑張ってや。
こっちのことは、任せといて。
なにか、大きな動きがあった時だけ、連絡するわ」
ヒロコは、いつものように言った。
ところが・・・事態が、急変したのだ。
1月“東京”から戻った、次の日の朝だった。
ふと見ると、ヒロコから着信が。
1時間前だ。
グッスリ眠っていたため、気づかなかったようだ。
ヤな予感。
電話を、した。
ヒロコは、すぐに、出た。
「お父さん、悪いねん」
「え?どうしたん?」
ワタシの言葉もまともに聞かずに、
ヒロコは続ける。
「人工呼吸器は、断ったけど、エエネ?
それから、お通夜は、
おばあちゃんの時と一緒の場所で、エエヨネ?」
お、お通夜って!??!
そんなに悪いの?
「今朝から、急に。
ガクッて感じやねん」
・・・
「(ジュンコの)承諾だけ、欲しかったんや。
延命処置を断った件は、事後承諾で悪いけど・・・
ジュンコは、仕事、優先してな。
絶対、無理しなや」
バタッと切れた。
“東京”明け、たまたま休みを入れていたワタシは、
すぐに病室に向かう準備を始めた。
半信半疑のままだった。
近鉄大阪線「長瀬」
近大(近畿大学)があるにもかかわらず、
未だ、準急も停まらない侘しい駅だ。
病院は、駅前。
そこから、5分くらいの場所に実家がある。
病室に飛び込んだワタシ。
父が、酸素マスクを付け、
横たわっている光景が目に入った。
異様に、かさが低い。
「お父さん、ジュンコやで!」
ヒロコの声に、父は、反応し、目がうっすら開く。
「わかっている、みたいやわ。
ジュンコが、来たで!
お父さん、しっかり、しいや」
ヒロコが、父の肩をたたく。
久しぶりに観る父の顔・・・やせ細り、
もともとの彫りの深い顔立ちが、
さらに際立っている。
酸素マスクをつけ、
生物として呼吸をしているだけ!?の状態だ。
あぁ、もうダメだな。
涙があふれ出てきた。
「いつから、こんなに悪くなったの?」
「軽い肺炎で、全然、大丈夫やったのに。
お医者さんが言うに『治療を拒絶した』らしいわ」
拒絶?
どういうこと?
「カラダが、
受つけへんねんて(受けつけないらしい)
どんな薬も、カラダが、はねのけるって。
お父さん、生きる氣が、ないみたいや」
ヒロコは、
ワタシにつられて流した涙をぬぐいながら
「(お父さんが)元気なあいだに、
いろんなこと、話し合っておいた。
お父さん『延命処置は、一切、いらない』
って言うてた。
『死んだら、長瀬川に散骨してくれ』と頼まれたわ。
それは、アカンけど(笑)」
ヒロコは、全く気丈だ。
父は、下顎をしゃくり、
肩も使って、息を繰り返す。
「苦しそうに観えるけど、そうでもないらしい。
二酸化炭素の量の方が多いから、
朦朧(もうろう)としているって・・・」
想像していた以上に、悪い様子。
ワタシは不安になった。
ヒデくん、間に合うかな?
その頃、
フォローを終えたヒデくんはミキヒコ運転で、
病院へ向かっていた・・・
お気に入りに追加